コロナの在宅勤務「Structure (構造)が無くなって」混乱

リーダー対話の場:Zooming Out on Zoom

あるお客様の会社のフィリピン人リーダーの方々と、隔週金曜日の夕方Zooming Out on Zoomというセッションをやっています。都合のつく人が気軽に参加して、会社の打ち合わせや会議では話し合わないようなトピックで対話する時間と空間を作っています。

フィリピンのコロナ感染状況は収束の見込みがたたず、在宅勤務が5カ月になり、その会社のコミュニケーションも全てオンラインです。用件や議事がなければオンライン会議もなく、職場のメンバーと仕事以外の話をする機会が極端に少なくなってしまっています。

そんな中で、仕事とは直接関係ないけど、ちょっとズームアウトして世の中を俯瞰的に見てみたり、自分の内面に向きあってみたりしながら、気付いたことを仲間達と共有する対話を通して、気分転換してほしい、という意図があります。そして気分転換だけじゃなく、仕事以外の世界を見る目を養ったり、自分自身についての気づきを得たりしてほしいという意図もあわせ持ったセッションです。

終わろうとしていること、生まれ出よう/始まろうとしていること

8回目となる先日のセッションの最後に、次のような3つの問いでジャーナリングをしました。(U理論を学ばれた方にはお馴染みの問いですね。)

  1. 世界や自分の周辺を見渡して、終わろうとしていること、なくなっていくであろうことは何か、始まろうとしていること、産まれようとしていうことは何か。
  2. 自分自身を見つめてみて、これまでの行動パターンや価値観などで、終わろうとしていること、やめることは何か、新しく始めよう/始まろうとしていることは何か。
  3. 自分は何者で、何をするために存在するのか。

言葉で表現しても、絵で表現してもいいですよ、ということにしました。

STRUCTUREが無くなった

いつもより少なめの8人の参加者だったので、ブレークアウト ルームには分かれず、みんなで共有し合いました。その中で一番印象に残ったのが、ある女性参加者が絵で表現し、共有してくれた、彼女の心の中の不安や、葛藤や、混乱でした。

彼女は、問いが提示されてからの瞑想とジャーナリングで、一つの言葉が強烈に浮かんできたそうです。それは、STRUCTURE (構造)だそうです。

「今までの人生は、STRUCTUREの中で生きてきたのに、コロナの流行でロックダウン(行動制限)と在宅勤務になり、いろんなSTRUCTUREがなくなってしまった。STRUCTUREがなくなってしまったことで気持ちが混乱しているし、不安が大きい」というのです。

STRUCTUREは、絵に表されているように、いつも通勤していた仕事場/オフィスのビル(構造物)が彼女の日々の仕事から姿を消したこともあるし、長く勤めてきた職場での日々の仕事のやり方、ルーティン、仕組み、プロセスみたいなものも、彼女の中ではSTRUCTUREであるようです。

「STRUCTUREがなくなってしまったけれど、業務としてこなさなければならないことは同じようにある。いまだに混乱を感じるし、不安が大きくなる。」

必要とされなくなってしまうのでは?仕事を失うのでは?という不安

そして彼女は話をし始めたことによって、更にどんどん言葉が湧き出してくるように話し続けました。「不安」という言葉が出たことから繋がって、自分が「必要とされない」存在になってしまうのではないかということがとても不安だと話してくれました。

経済的に貧しかった家庭の出身で、彼女自身が教育を終えて社会人として仕事を得てからは、彼女が家族の大黒柱として、両親や兄弟姉妹の生活や教育を支えてきたそうです。そんな彼女は「自分は必要とされている」という認識を原動力にして頑張ってきたようなところがあるそうです。

「必要とされているから頑張れる。」そして、今の会社も「自分を必要としてくれている」と信じて仕事をしてきたけれど、コロナ禍での在宅勤務が長期化する中、また国の経済状況の悪化が深刻というニュースを、耳にするにつけ、会社から「必要とされない」ときが来るのではないか、人員削減が必要な事態になったら、真っ先に職を失ってしまうのではないか、それはいつ来るのだろう、という不安を感じているというのです。仕事つまり収入源をいつ失うかわからないという不安から、副業で収入を得ることにもチャレンジしてみたけどなかなか上手く行っていないようです。

参加者の皆さんは、職種や業務内容も違い、勤務地も異なり、様々な視点の違いがあり、表現力や、どこまで共有するかのオープンさの度合いも様々です。もしかしたら、聞いていた他の参加者の中にも、同じような不安を抱えつつ、声に出しては言えなかった人がいるかもしれません。包み隠さない本音で、長期化するコロナの混乱の中での不安を共有してくれた彼女の勇気は、今回のセッションで多くの参加者の心に何かを響かせたと思います。

他の人たちが人助けすることを助けたいことに気づいた人

3番目の問い (自分は何者で、何をするために存在するのか)は、本当に難しい問いなので、何人もの参加者が「わからない」と正直に答えてくれました。当然ですね。ただ、中には、最後のチェックアウトで、”自分が世の中のために本当に何をしたいと思っているのか、ジャーナリングの問いが思い出させてくれた。「私は、他の人たちが人助けができるような助けることをしたい。」(To help others so they can help others soo.)と書いてくれた参加者がいました。

聴く力や、すぐには答えが出ないと分かっている問いから逃げずに向かい合い続ける力、そうした力を養う場は、普通の業務に追われる日々の中でなかなか確保できないものです。そして、一人ではなかなか続けられないものです。個々の内面を磨く地味で地道な取組を集団で行う・・・この成果が、長期的には組織や社会や世の中にポジティブなインパクトを与えてくれると信じています。1週間の仕事が終わる、金曜日の最後の1時間、17時から18時まで、忙しい中、疲れている中でもこのZooming Out on Zoomに参加してくれる皆さんに感謝しています。